前回は、蒸気圧とはどのようなものかについて触れてみました。
今回は、いくつかの金属における蒸気圧の違いについて触れてみたいと思います。
金属の蒸気圧は、見かけの硬さとは関係ありません。あくまで 原子がどれほど強いエネルギーで金属内に引き留められているか(束縛エネルギー) がカギになります。

蒸気圧が温度で変わるとよく言われますが、実際にはどのように変化するのでしょうか?
金属の表面には無数の原子が並んでいますが、それぞれが振動し、熱によって運動するエネルギーが増えていきます。
ここで、次のようなことがいえるでしょう
固体内に留まるには、一定の“束縛エネルギー”が必要
・熱によって原子は揺さぶられ、抜け出すためのエネルギーを得る
・ある瞬間、偶然にも脱出に必要なエネルギーを超えると原子が飛び出す
・この脱出確率が温度とともに大きくなる
こうして金属の蒸気圧は温度とともに増えていきます。
特に 蒸気圧は温度に対して指数関数的に増加するため、500~600℃に上げるだけで、蒸気圧が数倍~数十倍になることも珍しくありません。

ここでいくつか代表的な金属について、蒸気圧の傾向を比較してみましょう。
● Au(金)
蒸気圧が比較的低い
高温でも安定しやすい
表面が荒れにくいため薄膜材料として優秀
● Cu(銅)
Auより蒸気圧が高め
高温プロセスでは表面酸化と蒸発が同時に起こりやすい
● Ag(銀)
蒸気圧が高く、400〜500℃の熱処理で表面形状が変化しやすい
薄膜では局所的な欠落や凹みが発生しやすい
● Zn(亜鉛)
非常に蒸気圧が高い
400~450℃の加熱でどんどん蒸発
合金(真鍮など)では亜鉛が抜ける選択蒸発が起きやすい
金属の蒸気圧は決して同じではなく、元素によって大きく異なるため、熱処理条件を決める際には非常に重要な指標となります。
次回は、金属薄膜と蒸気圧に対し、実務的・現象論的な視点で深掘りしてみたいと思います。





















































































