前回は、金属薄膜と蒸気圧に対する実務的な視点で深掘りしてみました。
今回は、めっき膜の熱処理による変化と観察について触れてみたいと思います。
金属薄膜やめっき膜が熱処理されることでどのように変化するのか、実際に観察される変化はどのようなものがあるのかについて考えてみます。

①ディウェッティング(島状化)
金属薄膜の熱処理で最もよく観察されるのがこの現象です。金属膜が加熱されると、表面拡散によって原子が移動し、エネルギー的により安定な形を目指して再配置が起こります。その結果、
「連続膜 → 穴が開く → 粒がつながった状態 → 粒が完全に分離」という順で変化していきます。
蒸気圧そのものがディウェッティングの主因ではありませんが、蒸気圧の高い金属は次の理由でディウェッティングが起きやすくなります。
・金属原子の結合が弱い
・表面原子の動き(拡散係数)が大きい
・高温で蒸気圧が上がり、表面原子が安定しにくい
特にAu薄膜(数10 nm〜100 nm)、Ag薄膜、Cu薄膜などは、300〜500℃で顕著に島状化を起こします。
②表面粗化(surface roughening)
蒸気圧が高い金属の場合、蒸発よりも早い段階で粗化が起こることがあります。粗化とは、表面に凹凸が形成され、滑らかさが失われる現象です。これは主に、以下の理由で起こります。
・表面原子が不均一に動く
・下地との濡れ性が悪く、局所的に膜が収縮
・局所的な蒸気圧の差による原子の脱離・付着
たとえば、Ag薄膜を400℃で処理すると、蒸発を伴わずとも数十nmスケールの粗化が起こり、表面がモコモコしたような形状になります。
③組成変化(選択蒸発)
合金やめっき膜では、蒸気圧の高い元素だけが先に飛び出すことがあります。典型的な例として
・真鍮(Cu–Zn) → Znだけが蒸発し、Cuリッチになる
・焼結体(Ag–Cu) → Agが先に蒸発
・多層膜(Cu/Ni/Au) → Cuが界面から抜けて膜厚が変わる
特に、Znの蒸気圧は金属の中でも群を抜いて高く、400℃前後で猛烈な速度で蒸発します。また、Cuは酸化膜を形成しやすいため空気中では蒸発が抑制されますが、真空中なら500℃で確実に蒸発が始まります。
蒸気圧の上昇は、単に金属が蒸発しやすくなるだけでなく、拡散とも密接な関係があります。

原子の振動が強まり、表面から飛び出す一歩手前の状態
つまり、「 蒸気圧が高い → 表面原子がゆるむ」
ということ。
拡散(特に表面拡散)の促進
つまり、「 原子がゆるむ → 表面を動き回りやすくなる」
ということ。
「蒸気圧の上昇=拡散の促進」
と捉えてよいのです。
次回は熱処理による薄膜の複合現象について触れてみたいと思います。























































































