蒸気圧 -5vapor pressure -5

前回は、めっき膜の熱処理による変化と観察について触れてみました。
今回は、熱処理による薄膜の複合現象について触れてみたいと思います。

これまで蒸気圧の上昇によって、単に金属が蒸発しやすくなるということではなく、拡散と密接な関係があることを説明しました。

「 原子がゆるむ → 表面を動き回りやすくなる」というのは拡散の促進といえます。

よって、「蒸気圧の上昇=拡散の促進」と捉えることができます。

このため蒸気圧の高い金属では

・ディウェッティングが早く進む
・膜厚の不均一化が起こる
・粒成長が加速する
・下地金属との合金化が進みやすい

などの現象が連動して起きてきます。

蒸気圧が関与し膜厚が減るケースについて、その条件は以下が揃った場合が多い傾向にあります。

・高真空(10⁻⁴〜10⁻⁶ Pa)
・金属の蒸気圧が高い(Ag、Cu、Zn など)
・温度が高い(Agなら400〜500℃)
・薄膜(数十nm〜100 nm 程度)

このような場合、実際に数nm〜数十nmの減少が観察できます。

では、大気中ではどうなるのでしょうか?

大気中では金属表面が酸化するため、蒸発は大幅に抑制されます。CuやAgは酸化膜に覆われることで蒸発が遅くなります。つまり、大気中での膜厚減少は蒸発ではなく拡散・粗化・島状化が主原因ということになるのです。

解析において、よくある誤りについてみてみましょう。

・「薄膜に凹みがある → 蒸発した」と判断するのではなく、ディウェッティングの可能性が高いことが多々あります。

・「膜厚が減った → 蒸気圧が影響してしまった」 のではなく、 実は界面拡散(下地へ流れた)が起こっていたということが多々あります。

・「島状化した → 蒸発した」のではなく、 実は表面拡散による分離が起こっていることが多々あります。

常に解析に関わっている人でも誤解しやすい部分であり、蒸気圧と拡散は分離して理解すべきではなく、両方が同時に起こっているという考え方で見解を出す方が良いと思います。

熱処理中の金属薄膜の変化の多くは、蒸気圧の問題だけでなく、薄膜と基板の”濡れ性”が大きく関係します。

例えば
・Au/Ru → 濡れ性が悪いため、薄膜は島状化しやすい
・Cu/Ni → 濡れ性はやや良いが、高温で拡散により界面が変化
・Ag/SiO₂ → 非常に濡れにくく、ディウェッティングが起こりやすい

熱処理による薄膜変化は、「蒸気圧 × 表面エネルギー × 濡れ性 × 拡散」の複合現象として考える必要があります。

 

今回は「蒸気圧」について考えてみました。いかがだったでしょうか?
日々のめっき研究においては割と重要な部分であり、見落とさないように注意している点でもあります。
より高機能、高付加価値のあるめっきの開発に様々な知見を取り込んでいきたいと思います。

 

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