「貴金属めっきの量産不具合改善プロジェクト1」の続きになります。
前回までの内容は、不具合発生の仮説を立てたところまででした。
今回はその仮説がどうだったかについて触れたいと思います。
仮説を検証するために、ちょっとした実験を計画してみました。
各工程を分解し、どの段階で問題が発生しているかを特定してみます。
各工程とは
めっきの場合、複数のめっきを行いますので
どこでその不具合が発生しているかが課題になります。
ざっくりとした工程は以下の通りです。
前処理→めっき1→めっき2→めっき3→めっき4→完成
工程では各パラメーターが自動で記録されていますので
そのデータも活用し、計測をしてみることにしました。
めっき液温度、電圧、処理時間など多くのデータを使用します。
実験の結果を詳細に分析し、統計解析を行ったところ
いくつかの不具合に関する主要な要因が浮かび上がってきました。
特に、以下が不具合の主な要因であることが判明してきました。
通常は50±5℃で管理されるべきめっき液の温度が
実際には38℃まで下がってしまう現象が発生していました。
常にではなく、ランダムですが1日に何回か発生しているようです。
これに伴い、液の特性が変わり、電流密度が不安定になることで
めっき粒子の析出に問題が生じている可能性がわかってきました。
温度変動の影響で電流密度が安定せず
めっき品質にばらつきが出ている可能性がありそうです。
これらの要因の確証を得るために、複数の組み合わせでデータを採取しました。
その結果から、わかりやすいところだけを抜き出したデータになりますが
以下のデータは、複数日の時間と温度と電流密度の関係の平均値を示したものです。
時間 | 温度(℃) | 電流密度(ASD) |
10:00 | 50 | 0.80 |
11:00 | 46 | 0.78 |
12:00 | 38 | 0.41 |
13:00 | 48 | 0.79 |
14:00 | 52 | 0.82 |
※電流密度については仮の数値に置き換えています
これは、生産スタートからの、あるめっき槽について確認した結果です。
データの温度は実際の被めっき物近方で測定した数値ですが
2時間で12℃も低下することがわかりました。
これは熱電対近辺の温度が安定している時は加熱しないため
実際のめっき処理部は液が冷えて行ってしまっているようでした。
これらのデータを基に、液温の温度センサーの精度と
取付箇所を最適化することが必要であると考えました。
しかし、先入観はよくありません。
他にも問題はあるハズ
テストを重ねると・・・
単にセンサー位置の問題だけではなく
めっき装置の温度制御にもいくつかの問題が見つかりました。
装置には複数のヒーターが配置されており、それぞれがめっき液を加温していました。
しかし、ヒーターの制御機能がよくなく、一部のヒーターが過剰に加温していました。
この過剰加温が以下のような問題を引き起こしていました。
一部のヒーターが設定温度を超えて加温してしまい
めっき液の温度が局所的に高くなることがありました。
装置の構造的な面では、めっき液の流れがよくなく
熱電対付近で液の滞留が発生していました。
この滞留によって、被めっき物の実際の温度が不安定になり
めっき品質にばらつきが生じていたようです。
またこれだけではなく
微細部品のめっきという特殊がゆえの問題も含んでいました。
次回はこの問題の複合要因によるところを紹介したいと思います。