今回は、我々の業務で度々出くわす「蒸気圧」について触れてみたいと思います。
ここにおいては専門ではないので、詳しいことは記述できませんが、知っている範囲での紹介になります。
「蒸気圧」とは・・・
「一定温度で、凝縮相(固体/液体)と蒸気が平衡にあるときの圧力」 と定義されたりしています。なんだか難しそうでわかりにくいですね。

我々が金属を熱処理する度によく考えているこのワード。「蒸気圧」。
熱処理というと、炉で金属を加熱して硬さを変えたり、内部応力を取り除いたりする、製造現場ではおなじみの工程を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、実はその裏では、ほとんどの人が気にしたことのないある物理量が、静かに、しかし確実に金属のふるまいを支配しています。その物理量こそが 「蒸気圧」 です。
蒸気圧というと「水が蒸発する時の・・・」というイメージが強いため、金属との結びつきは意外に思えるかもしれません。しかし金属にも蒸気圧があり、熱処理のように高温にさらす時には、金属表面の状態・組成・膜厚までも左右するほど重要になります。
まずは蒸気圧とは何か? について、蒸気圧の概念を、水を例にして考えてみます。
コップに入れた水を放置すると、いつの間にか量が減っています。これは水が蒸発したからです。蒸発するのは、水の分子が液体に留まり続けたい力より、空気中へ飛び出したい力が大きくなるためです。そして、この「飛び出したい力」こそが蒸気圧の正体なのです。

蒸気圧は、温度が上がれば上がるほど強くなります。熱によって分子の動きが激しくなるからです。
では、金属にも同じようなことが起きるのか?という疑問が起こりますね。
答えは「はい」です。
金属も高温になれば、表面の原子が激しく振動し、表面から飛び出す確率が上がります。水のように液体すべてが蒸発することはありませんが、表面から徐々に原子が抜けていく という現象は確かに存在します。
そして熱処理では必ず高温を扱うため、蒸気圧は無視できない存在になるのです。
水の蒸気圧の話は理解できますが、金属の蒸気圧は想像しにくいかもしれません。その理由は、金属原子が液体よりはるかに強い結びつきで固体をつくっているためです。
金属の原子は電子を共有しながら結び付く「金属結合」をしています。金属結合は通常の分子間力より強く、原子が抜け出しにくいため、常温では蒸気圧はほぼゼロに近くなります。
しかし、温度が上がると、金属原子の振動が激しくなり、結びつきから抜け出す原子も出てきます。その結果、金属にも確かに蒸気圧が生まれます。
水と金属の蒸気圧の違いは量の問題ではなく、本質としては同じ性質が働いていると言えます。
金属の蒸気圧は、その金属の原子がどの程度しっかり束縛されているかによって決まります。
● 束縛が強い金属 → 蒸気圧が低い
例:タングステン、ニッケル、ルテニウム、白金
こうした金属は溶融点が高く、熱しても表面から原子が飛び出しにくいため、蒸気圧が低く安定しています。
● 束縛が弱い金属 → 蒸気圧が高い
例:銀、銅、亜鉛、マグネシウム
こうした金属は比較的低温でも蒸発しやすく、熱処理では表面の変形や組成変動が起きやすくなります。
金属も蒸発することがあることを知っていただけたでしょうか?
次回は、いくつかの金属を比較してみたいと思います。





















































































