前回は、なぜ前の仕事が頭から離れないのかについて触れてみました。
今回は、注意残余が強まる心理的要因とその影響について考えてみたいと思います。
未完了のタスクは、脳の中では「まだ終わっていない目標」として保持され続けます。
この状態は、「次に何をすべきか」を思い出させるリマインダーとしては役立ちますが、その一方で、すでに別の作業に取り組んでいるときには、余計な干渉源にもなります。
その結果、いま行っている作業Bに十分な注意を向けにくくなります。
注意残余がしつこく残るのは、この未完了状態が注意を引き戻す働きと、タスクを切り替える際に生じる脳の負担が同時に起こるためです。

前の作業から新しい作業へ移るとき、脳は考え方やルールを切り替え、不要な情報を抑え、新しい情報を作業記憶に載せ直そうとします。
この切り替え作業が行われている最中に、未完了の課題が「まだ終わっていない」と主張し続けるため、注意残余は強く、しかも長く続きやすくなると整理できます。
さらに心理学的には、注意残余が「反すう」や「心配」の入口になりうる点です。
「反すう」とは、嫌な記憶や不安を繰り返し思い返す「反すう思考」を指します。
過去の失敗やネガティブな出来事を、頭の中で何度も繰り返し再生するといったものです。
反すうは反復的で侵入的で不快な思考であって、未完了タスクが残ると「終わらせなければ」「失敗したらどうしよう」という気持ちになりやすく、そこに時間の制約や対人が絡むと、情動を伴った反復思考に変質してしまいます。
このとき注意残余は、単なる注意配分の問題を超えて、焦燥感、罪悪感、緊張といったストレス反応を増幅し、疲労を強めてしまいます。
未完了タスクと反すうが睡眠を損ねうる、という方向の研究もあり、週末に未完了タスクが残っていることが反すうを介して休息を妨げる、という見解があります。
「家に帰っても仕事のことが頭から離れない」という場面があります。
これは注意残余が勤務時間内のタスク切り替えだけでなく、勤務外の回復過程にまで持ち越されていると解釈できます。

注意残余が特に強く現れやすい場面には、いくつか共通した心理的な条件があります。
まず一つ目は、直前に行っていた作業が途中で終わっている場合です。
作業がきちんと完了していれば、気持ちの上でも一区切りがつき、その仕事について考え続ける必要はあまり残りません。
しかし、途中で止まっていると、「まだ終わっていない」という状態が頭の中に残り、次の作業に移っても前の仕事が気になり続けやすくなります。
これは、やり残したことほど心に残りやすいという心理的な性質とも一致しています。
もう一つの条件は、その作業が気持ちの面で重たい内容である場合です。
たとえば、人間関係の問題や評価が関わる仕事、失敗したときの影響が大きい判断、正解がはっきりしない課題などは、脳が「まだ解決していない問題」として強く意識し続けます。
そのため、別の作業に切り替えたあとでも、「さっきの件」が何度も頭に浮かびやすくなります。
さらに、作業の切り替えが頻繁に起こるほど、注意残余は少しずつ積み重なっていきます。
あれこれ同時に進めようとしたり、短い時間で何度も別の作業に移ったりすると、集中が分断されやすくなります。
こうした状態が生産性を下げやすいことは、マルチタスクの問題点としてもよく知られており、通知や割り込みが多い現代の仕事環境では、注意を回復させること自体が難しくなっていると考えられます。
次回は、注意残余への対処について考えてみたいと思います。

































































































